非干渉駆動機構

人と接してはたらくロボットは、人にぶつかって危害を加えたり、自損したりすることがないようにしなければなりません。そのために必要なことは、アクチュエータがしなやかさを備えることと、何よりロボットが軽量であることです。非干渉駆動機構(DDM:Decoupling Drive Mechanism)はモータを求心化してロボットの可動部分を軽量化する働きがあります。

概要

DDMは動力を伝達するギヤボックスの一種で、多関節ロボットやヒューマノイドロボットの関節部分に取り付けて使用します。 関節の回転に干渉されることなく動力を伝達する性質を備えるため、適当なベルトやチェーンで連結することにより、駆動部分から離れた場所にモータを設置することができます。 そのため、ロボット全体の回転中心付近(ヒューマノイドの胴体や垂直多関節ロボットの架台部分)にモータを集中して配置することができます。 この作用を弊社では求心化と呼んでいます。求心化により次のような優れた効果が生まれます。

  • アームの軽量化により衝突安全性が向上する。
  • アームの軽量化により駆動速度が向上し、タクトタイムが短縮する。
  • 可搬重量が拡大する。
  • モータの重量増がイナーシャの増大につながりにくいため、高出力化の効果が高い。
  • アームの細径化や小型化が可能なため、パワーアシスト装置に適する。
  • モータを集中させて配置できるため、配線が容易になる。
  • 水冷系の配管が容易になるため、モータの水冷によるピークトルクの向上を図ることができる。
  • アームを機械要素のみで構成することができるため、高熱、浸水、放射線などの過酷環境中で使用できる。
このような効果のうち、アームの軽量化による安全性の向上は、医療や介護分野などのロボットに特に有効と考えています。

動作原理

DDMの動作原理は直動型の動作が基本です。直動型DDMは左図のように、リテーナで保持された2つのピニオンギヤと、それと噛み合う4つのラックから構成されます。4つのラックは対称な構造を持ちますが、適当なラックを基準にとれば、それぞれ後述する固有の機能(G、I、S、O)を持つようになります。

   ・G : 力学的基準(Ground)
   ・I : 入力(Input)
   ・S : 支持(Support)
   ・O : 出力(Output)

それぞれの位置関係は力学的な性質から決まっており、適当に選んだGに対して、Gと同じピニオンギヤと噛み合うラックがS、Gと同じ側にあるラックがI、残りがOとなります。

直動型DDMは、距離が変動する2つの物体の間で力を授受するために使用します。そのために、力学的な基準となる物体にGラックを固定し、変動する物体にSラックを固定します。このとき、Gラックに固定された座標においてIラックに力を入力すれば、Sラックに固定された座標からみて、Oラックに力が出力されたように見えます。ここで、G基準とS基準の2つの座標系を考えることが重要で、両座標系の相対距離に関係なく一定の力が伝達されているように見えるのがポイントです。これがDDMの本質的な性質です。

この関係は力学的にも確かめることができます。右図のように、Gを基準として力FをIに加えるとき、Gには反力として-Fの力が加わった状態となります。Iラックに力Fを加えた状態で釣り合うためには、Iラックと噛み合うピニオンギヤとOラックに、それぞれ-2F、Fの力が必要となります。さらに、リテーナが静止する条件として、Gラックと噛み合うピニオンギヤに2Fの力が必要になります。GラックにはIの反力として-Fの力が加わっているため、釣り合いの条件としてSラックにFの力が必要となります。結局、Sラックに加わる力をOに加わる力の反力として見ると、Sから見てOラックに力が伝達されたことになります。この関係はGラックとSラックの距離が変動しても成り立ちます。

さて、ラックをゴムのように柔らかい素材と考えて、リング状に丸めることを考えます。ピニオンギヤの回転面と垂直な方向にラックを曲げると、直動型DDMは同軸2重の差動歯車機構となります。ピニオンギヤの回転面と平行な方向にラックを曲げた場合は、同軸2列の遊星歯車機構になります。各ギヤの動作には直動型の原理がそのまま成立するため、それぞれ回転型のDDMとなることがわかります。ただし、差動型は動力伝達にともなって回転方向が反転し、遊星型はそれに加えて回転数が減速します。

ここで紹介したDDMはごく一部で、他にも様々な応用が可能です。例えばピニオンギヤとラック(またはリングギヤ)の数を増やせば2自由度や3自由度の動力伝達が可能となり、DDMが直交するように組み立てれば、2軸や3軸の関節機構も実現できます。その他にも各軸の回転角が累積するように連動するような動作をさせることも可能です。

従来手法との違い

DDMを、多関節ロボットやヒューマノイドロボットの関節部分に使用すれば、関節の回転に干渉されることなく動力を伝達することができます。したがって、適当なベルトやチェーンで駆動系を構成すれば、駆動軸から離れた場所にモータを設置することができます。このようにして、ロボット全体の回転中心付近(ヒューマノイドの胴体や垂直多関節ロボットの架台部分)に質量を集中させることができます。この作用を弊社では求心化と呼んでいます。

左図のように、空転する歯車やプーリを用いて動力伝達を中継する方法もありますが、関節を動かすと他の関節が動いてしまう構造になるため、それを打ち消すために干渉制御と呼ばれる高度な電子制御が必要でした。しかし、DDMは機械的に干渉制御を実現することができるため、容易に求心化を実現することができます。その他にも機械式のDDMは、電子制御と比べて次のような点で優れています。

   ・周波数特性が良い(急な負荷にもよく追従する)
   ・制御的に不安定になることがない
   ・特殊なドライバが必要ない
   ・逆駆動可能なため機械インピーダンス制御にも対応する


用途・応用例

医療・介護用スカラロボット DDMを使用することにより、スカラロボットのアーム部分を軽量化・スリム化することができます。これにより、ユーザに対しては作業性と衝突安全性が高まり、ロボットに対しては耐衝撃性が向上します。インピーダンス制御技術またはコンプライアントアクチュエータと併用すれば、安全性と可用性をさらに高めることができるため、ロボットと人が接触する環境で利用される、医療や介護などの用途で特に有効です。


パワーアシスト装置 従来のパワーアシスト装置では、駆動軸付近にモータを設置していたため、スムーズな動作の妨げになっていました。DDMを利用すれば、背部などの邪魔にならない場所にモータを置いたり、それによってイナーシャを低減したりすることができるようになるため、設計性や使いやすさが向上します。




3軸関節
DDMを特殊な方法で組み合わせると、回転角が累積するように連動する動作が可能になります。このような動作は、ベベルギヤで構成された等速3軸機構の非干渉駆動に最適です。この方法であれば各軸のすぐそばにモータを置く必要がないため、ヘッドが軽くコンパクトになると同時に、大出力化も可能となります。さらに、逆方向にも忠実に力を伝達するため、コンプライアンス制御や力のセンサレス計測にも最適です。このような性質は、医療用や精密組み立て用の小型マニピュレータに特に最適です。

ライセンス情報

  • 特許取得済 特許第4981986号
  • 国際出願中 PCT/JP2012/068736